自然。

なんだか、今日は寒い。
桜も渋るこの寒さ。もう4月だというのに。

4月は行事がつまっている。
入園式、入学式、入社式、新学期。・・・ってそんなもんか。
たいしてつまっちゃいなかったな。
気分的には「新しい」気持ちでこの1ヶ月を過ごすことが多い。
はじまりの月。そして、桜が咲いて散るころには
若葉の匂いがし始める。
自然に囲まれた場所に学校があったからか、
学生時代の思い出は、共に必ず草や木や花や実、
土や風や空が一緒に記憶されている。
空の色、風の匂い、土の温度、
桜吹雪き、銀杏並木、梅林、栗林の栗拾い。
しろつめ草で編む花輪、つくしやオオバコ、
ヘビ苺にくわの実、びわにしいの実。
春には至る所に、人が関わった形跡のない花たちが咲き始め、
初夏には生い茂る若葉の風の音が授業中に聞こえた。
秋には落ち葉を集め、たき火をしたり。
色彩の少なくなった校庭に冷たい風が吹いても、
校内の敷地のどこかで春はまだかとたくさんの
生き物が待っていた。
そういえば・・・
お腹・・・壊したな・・・くわの実食べて。
なにの、そうたいしておいしくなかった。
あ、ヘビ苺もまずかったな。
梅も触った手で皮膚の弱いところを触ると、かぶれたりして
真っ赤になったっけ。。


それに、銀杏の臭かったこと。何が臭いって、銀杏が臭い。
1本、2本が植わっているわけではない。
「並木」だから・・・。もう、悪臭なんて生易しいものではない。
落ちた臭過ぎる銀杏を踏まないと
その並木通りは、通ることができない。
おえぇぇぇーーーーといわずには、鼻をつまんで、通らずには
いられないほど臭かった。
それでも近所のおばちゃんは、銀杏を拾いに来ていた。
おばちゃんクラスになると、
あんなの臭いうちには入らないといったとこか。
やってることは、勝手に人の敷地に入って銀杏を拾うという
軽ーい窃盗ながら、あの匂いにびくともしない
おばちゃんに拍手をおくりたかった。


校庭周りには、樹齢何十年というかなり立派な桜の木が、
何本も植わっていて、満開になると
幻想的なほどの桜吹雪が舞散る。
しかし、桜が散って青々とした若葉がしげる頃、
世にも恐ろしい光景が訪れる。
その名も「毛虫じゅうたん」。うぁっ。
書いてて、思い出してしまった。鳥肌スタンドアップだよ。
挙げ句に、毛虫爆弾が木からボトボトと落ちてくるのだ。
さながら「東京大空襲」を連想させるほど。
天気のよい日に傘をさし、毛虫に占領された桜の木を下を
一気に走り抜ける。その時、頭上にも、注意をはらわねばならないが、
もちろん、足下は毛虫じゅうたん。上ばかり気に取られ、
新しく落ちた毛虫爆弾を地雷のごとく踏んでは意味がない。
上から、下からもう、ちょっとしたパニック。
そう、あたかも出張フレンドパーク。
悲鳴と共にあまりにもその凄まじい光景に我を忘れ、
自分のおかれた状態が非現実的でおもしろくなってくる。
嫌よ嫌よも好きの内。結構、出張フレンドパークが楽しくなって来る。
しかし、ニンゲンには「順応する」能力がもともと備わっている。
そして、毎日がフレンドパークなほど我々だって、暇じゃない。
慣れとは恐ろしい。毛虫爆弾が落ちる前に、
ほぼ毛虫の落ちていないところなど
なくなったアスファルトをずかずかと、足早に普通に帰る日が訪れた。


とある秋も深まる午後、栗林の近くの外掃除当番になり、
掃いては落ちる栗の枯れ葉をじっと見つめ、
「意味ないじゃん!」と不条理を感じたものだ。
そんな感情のまま、もう掃除などやっていられない。
秋の栗林、枯れ葉と共に落ちているもの、そう、「いがぐり」。
丸くて、大きくて、見るからに痛い。
その無数の針山を親指と人さし指でチョイとつまみ、
みんなで当てっこがはじまる。
ジャージ生地はよく、針が通るらしくぶつかるとかなり痛い。
っつーか、拾って投げる方も一苦労なので、
そうたいして勢いよく投げられず、
不発に終わることが多かった。そこで、掃除時間ならでは、
「竹ぼうき」を活躍させようではないかと野球を始めることにした。
しかし、ピッチャーとバッターのさしで勝負。
無理だもん、キャッチャーがいがぐり受け取るの。
近距離でバッターめがけ宙を舞ういがぐり。
思いっきりブンっと竹ぼうきバットを振る。これが結構いい当たり。
でも、みんな、ぎゃーぎゃーいいながら逃げる。
そんな、行程が何組かくり返された時だった。
盛り上がれば盛り上がるほど、晩秋の日の傾いた寒空に
いがぐり野球の歓声が響き渡る。
すると向こうのほうから、
すごい形相の掃除担当・生活指導の先生がやって来た。
「おまえたちー!!なにやってるーー!!」と自分の竹ぼうきを振り上げ
なんちゃって野球会場めがけ、
とてつもない早さでやって来るではないか。
逃げ、隠れする間もなく、我々はご用となった。
「何をやっていたんだっ!!」と問われ、
素直に答えた。「野球です」。まぁ、怒られるわな。
たいして痛くはなかったが、持っていた竹ぼうきで叩かれた。
先生はその時言った。
「ほうきは掃除するもので、遊ぶ道具じゃない!!」と。
作者はすかさず
「いやいや・・・ほうきは掃除するもので、
人を叩く道具じゃないんじゃねぇーのぉ?」と。
もちろん、もう叩かれるのはごめんだもん。
言わずにおいた。


そんな学生時代の思い出。
季節を感じると、学校の思い出が
ふと、顔を出す。
自然の移り変わりを感じ、学べ、友と過ごした
学生時代は宝物だ。
もちろん、毛虫も銀杏もいがぐりも。